一人目は敦盛親父です。
本名はわからないので、これは俺が勝手につけたニックネームです。どういう人かというと、駅のホームやら電車の中でひたすら敦盛を舞っている男性です。
スーツ姿でかなり頭髪が薄い、おそらく定年間近と思われる年配の方ですが、その舞いにはただならぬキレがあります。
初めて彼を見かけたとき、俺は思わず声をかけてしまいました。
かけずにはいられませんでした。
「人生、五十年ですか」
明らかに五十歳を超えている彼は、その矛盾を気にするふうでもなく、前後に円を描くような優雅な動きを一時も止めずに答えました。
「ええ、夢幻の如くですよ」
それ以来、見かけるたびになんとなくひと言かふた言、言葉を交わすようになりました。
敦盛の動きを邪魔しないように若干距離をとって「どうですか、景気は」「ぼちぼちですね」みたいな毒にも薬にもならない話をします。
ある日、敦盛親父の動きが妙に鈍く、その所作の端々にどうも迷いのようなものがあるように思えたので、どうしたのですか、と声をかけました。
「ちょっとね、自信がなくなってきてしまったんですよ」
少しだけ目を伏せながら(でも動きは止めずにせわしなく)彼は言いました。
「私はこのまま、ただ敦盛を舞っていてもいいのだろうか、と」
俺はそっと彼の肩を叩こうとして、しかし敦盛の足運びを邪魔しそうで怖かったので手を引っ込めつつ言いました。
「いいんじゃないですか。どうせ人生、五十年」
我ながらとてつもなく無責任な言葉でしたが、彼の動きは少しだけ精彩を取り戻したように思えました。
本名はわからないので、これは俺が勝手につけたニックネームです。どういう人かというと、駅のホームやら電車の中でひたすら敦盛を舞っている男性です。
スーツ姿でかなり頭髪が薄い、おそらく定年間近と思われる年配の方ですが、その舞いにはただならぬキレがあります。
初めて彼を見かけたとき、俺は思わず声をかけてしまいました。
かけずにはいられませんでした。
「人生、五十年ですか」
明らかに五十歳を超えている彼は、その矛盾を気にするふうでもなく、前後に円を描くような優雅な動きを一時も止めずに答えました。
「ええ、夢幻の如くですよ」
それ以来、見かけるたびになんとなくひと言かふた言、言葉を交わすようになりました。
敦盛の動きを邪魔しないように若干距離をとって「どうですか、景気は」「ぼちぼちですね」みたいな毒にも薬にもならない話をします。
ある日、敦盛親父の動きが妙に鈍く、その所作の端々にどうも迷いのようなものがあるように思えたので、どうしたのですか、と声をかけました。
「ちょっとね、自信がなくなってきてしまったんですよ」
少しだけ目を伏せながら(でも動きは止めずにせわしなく)彼は言いました。
「私はこのまま、ただ敦盛を舞っていてもいいのだろうか、と」
俺はそっと彼の肩を叩こうとして、しかし敦盛の足運びを邪魔しそうで怖かったので手を引っ込めつつ言いました。
「いいんじゃないですか。どうせ人生、五十年」
我ながらとてつもなく無責任な言葉でしたが、彼の動きは少しだけ精彩を取り戻したように思えました。
randamHEXA (via ginzuna)